サクラの花
三栄真衣子さんの作品 '96.4.10.
 原画はSM紙に鉛筆と色鉛筆

サクラの花
作者のコメント:
 桜の花.
 春の蒼い空を薄桃色の雲で覆い尽くすかのように咲き誇る花.手の届かない高い処
にのみ存在するもの.万人に愛される花.日本人の心の花.でも,どんなに美しいと
感じても,自分だけのものにしてはならない.そういう「禁断の花」として特別のよ
うに見ていた.「桜の枝は決して折ってはいけないよ」と誰からともなく制されてきた.
 ところが初めて出席した植物画のクラスで,なんとその禁断の花がモティーフとし
て飾られていた.恐る恐る手にした桜のひと枝は,下界から見上げるしかなかったあ
の気高い花というよりは,ただ「植物」として其処に在った.
 いざ描き始めると,すぐにわたしはサクラを観察することにのめり込んでしまった
.わたしはサクラを掌の上でくるくると廻し,触れ,花弁のひとひらの色の濃淡まで
も丹念に眺めた.この時,私は「見る」ことと「観る」ことの違いをはっきりと感じ
た.「見て」いるときとは違った「観る」ことによって得られる感動が,心を満たし
ていた.「サクラという花はこのような造りだったのか」始めて知るこの花の秘密だ
った.
 その日の帰り道,とうに陽の落ちた薄暗い空の下,夜桜見物客のために用意された
灯りを受けて,桜はやはり気高く咲き誇っていた.ただぼんやりと「桜はきれい」と
思っていたのが,観察し,描き,一層知り得たことによって,わたしは心から「桜は
美しい」と思った.そして,そう思えた自分がとても嬉しかった.
 これから先も,わたしは自ら桜の枝を折ることはないだろう.わたしは描くことに
よって,桜の枝を永遠に自分だけのものにすることが出来た.これは,多分生涯で一
度だけであろう経験を後々まで残す,大切な画となった.

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